見出し画像

【特集 Vol.21】信号取扱者研修が継承する、信号だけにとどまらない学び。

安全・安心な電車の運行は、普段お客様から見えない場所で働く、多くの社員の仕事によっても支えられています。今回取り上げる信号取扱者の業務もその一つ。電車の運転区間には多くの信号があり、通常時は機械が自動制御しています。しかし、ダイヤの乱れや異常などが発生した場合、機械のプログラム通りに運行ができなくなるため、手動での信号操作が行われるのです。
他にもトラブルの原因究明や総合指令所(※)との連携など、高い専門性も必要になるため、東京メトロでは信号取扱に関する研修を実施し、知識・技術を継承しています。今回はその研修にフィーチャーし、クラス担任を務める末吉さんと元研修生の田村さん、二人の視点で研修の内容や背景、それぞれの考えを紐解いていきます。
 
※総合指令所とは東京メトロ全9路線の運行を一元管理し、お客様の安全や安定運行を守り、首都東京の足を支える司令塔的存在です。


信号取扱者の業務を中心に、幅広い知識と経験を


(写真左)営業部/田村 宏樹 (写真右)営業部/末吉 晴彦

末吉:私は人材育成を担当しており、新入社員研修をはじめとしたさまざまな研修の企画や運営に携わっています。今回お話しする信号取扱者研修ではクラス担任も務めています。
 
田村:私は現在、千代田線沿線で信号業務と駅業務を担当しています。2023年の11月に研修を受け、末吉さんとはクラス担任と生徒という関係でした。
 
末吉:信号取扱者研修は駅の監督職になる社員や、選考試験を突破した駅の係員を対象としています。選考も厳しいのですが、16日間という短期間に座学と実技を行い、内容も専門性が高いためハードな研修だとは自認していまして……田村さんはどうでしたか(笑)。
 
田村:そうですね(笑)。確かに厳しかったのですが、多くのことを学んだ研修でした。私は駅務管区長という管理職を目指しており、そのためには駅業務以外の知識や幅広い視野が欠かせません。なので、ハードだとは思いつつも、手をあげました。
 
末吉:“信号”取扱者研修と聞くと、信号のことだけを学ぶと思われるかもしれません。もちろん、線路の分岐点や信号を連動制御盤と呼ばれる機械で切り替え、電車の進路を決めるといった基本も学びますが、田村さんが言う通り駅業務や信号取扱者の業務にとどまらない知識や経験を得られる研修でもあるんです。
 
なぜ信号以外のことを教えるかというと、信号取扱者の業務はさまざまな鉄道を構成する要素や、他部署の業務とつながっているからです。たとえば、電車の運行をコントロールするには、電車自体や線路の仕組みを知らなくてはいけません。いざというとき、駅社員に指令を出す総合指令所との連携も重要です。知識や経験を深めることで、駅務管区長などの責任者に必要な広い視野を得ることができ、よりお客様の安全・安心に貢献できるようになるんです。

▲訓練用の連動制御盤

田村:確かに!駅での勤務の際、以前の私なら、総合指令所からの発信内容を正確に引継ぐことだけに注力していました。研修を経た今では、何が起きているか理解できるようになり、より的確かつスムーズな伝達ができるようになりました。

厳しい研修を乗り越えるために、大切なこと


田村:座学では、特に転てつ器(※)の鎖錠(さじょう)について、覚えるのに苦労しました。線路の分岐点は基本的にスイッチで操作しますが、電車が分岐点上にいる際に切り替わると危険です。それが起きないように鍵をかける行為を鎖錠と呼びます。専門用語が多く、鎖錠の種類や条件もさまざまで、覚えるのが大変でしたね。ただ、分岐点が切り替わらないトラブルが起きたときに、原因が分岐点の性質か機械の故障なのかを判断するためにも必要な知識なので、しっかり勉強しました。
 
※転てつ器(ポイント):「分岐器」と、電気系統で動く「転てつ装置」などからなり、1つのレールを2つ以上のレールに分岐させる設備のこと。
 
末吉:鎖錠をはじめ、短期間で覚えることが多い座学も大変ですが、後半の実技も決して簡単ではありません。たとえば、転てつ器が故障したケースを想定した「保安装置故障処置訓練」では複数人でチームを組み、故障が起きている分岐点へと走り、確認事項などをすべてクリアしなければならないんです。

▲実際の訓練風景(保安装置故障処置訓練)

田村:厳しい研修を乗り越えるためには、研修生同士のチームワークが不可欠です。私は級長だったので、限られた時間の中でメンバーが平等に訓練できるように気をつけました。そうやって動いていると、自然と皆お互いを支え合うようになるんですよ。
 
末吉:チームワークはクラス担任側も意識しています。たとえば、グループを組むときには進捗が早い人だけを固めないようにしたり……東京メトロの業務全般に言えますが、信号取扱者も多くの部署と連携しなければいけません。連携がうまくできないと対応遅延にもなりかねないので、チームワークは研修内で特に学んでほしいポイントです。

他の人と比べず、なすべきことを


田村:そういえば、研修修了後に末吉さんが私のいる駅に来てくれたことがありました。当時は現場でのOJT期間中だったのですが、練習がうまくいかずに落ち込んでいたんですよね。そのとき、末吉さんが「田村さんは頑張っている」と声をかけてくれた上に、アドバイスのメールまで送ってくれて。とても救われたのを覚えています。
 
末吉:慣れてきたタイミングが一番ミスしやすいので、フォローを入れにいったんですよ。研修終了後に研修生と会うタイミングはあまりないからこそ、努力している姿を見るとやはり嬉しいです。
 
田村:研修生といえば、他の研修回と比べて私たちはどうでしたか。
 
末吉:他の人と比べなくてもいいと思いますよ。信号取扱者の業務にとって一番大切なのは、ミスを起こさないこと。ミス一つがお客様の安全・安心に関わってくるので、決められたことを確実に遂行することが最優先です。だから、誰かと比べる必要なんてありません。
 
田村:確かに、その通りですね。
 
末吉:私も質問したいのですが、田村さんは私みたいに講義をする立場には興味はありますか。
 
田村:今のところは自信がないです(笑)。ただ、後進指導は、この研修で学んだことを活かして積極的に行いたいです。

伝統を守りつつ、もっと進化した研修へ


田村:講義について、私が受講していた頃から何か変化はありますか。
 
末吉:以前は資料を紙のみで渡していましたが、今は駅社員にタブレットが貸与されているので、データ上で渡している資料もあります。あとは研修を担当する私たちにも振り返りが大切で、講義後のアンケートには率直な意見を書いてほしいと伝えています。
 
田村:いろいろと試行錯誤しているんですね。
 
末吉:他には、自分の訓練風景を動画に撮って勉強している研修生もいました。そういう柔軟な姿勢は私たちも見習って、もっと進化していきたいですね。一方で、決められたことに従ってミスなく遂行する」という研修の軸は不変です。信号取扱者の業務は言うなれば裏方ですが、東京メトロには目に見えない場所で安全・安心を支える仕事がたくさんあります。そういった仕事に大切なのは安全・安心を確保するために、正確に業務を遂行することなので、その意識を継承させる役割としてこれからも頑張りたいです。
 
田村:確かに目立たない仕事ですが、同時になくてはならない仕事です。この記事を読んでいるお客様にも伝わると嬉しいですね。
 
末吉:そうですね。あとは、これから受講を考えている東京メトロ社員も、大変ながらも着実に力になる研修なので、ぜひ挑戦してみてください!

▲駅の信号取扱者が着用できる、金色の線が入った帽子

※記事の内容は2024年12月の取材時点のものです。

東京メトロに関する話題や情報を発信しています。ぜひフォローお願いいたします!