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【特集 Vol.19】地下鉄のトンネル検査用ドローンが担う、最先端の保守・管理。

安全・安心な運行のための保守や管理。それらを効率的かつ高精度に推進していくためには、社員一人ひとりの意識以外にも、新しい技術を積極的に導入することが大切です。今回紹介する地下鉄のトンネル検査用ドローンもその一つ。本来、空を飛ぶイメージの強いドローンが、なぜ地下トンネル検査に使われるようになったのか。また、導入までにどんな課題があり、どうやって乗り越えてきたのか。工務部土木課で業務改善や効率化に取り組み、ドローンの担当者でもある菅原さんに詳しく話を聞きました。


「地下飛ぶドローン」が生まれたきっかけ


工務部 土木課/菅原 健

私は普段、土木建造物の維持・管理に関する調査や研究、土木検査システムの管理や運用を担当しています。そういった仕事の中の一つに、業務改善や効率化があるんです。たとえば、2年ごとに行うトンネルの「通常全般検査」では、広大な東京メトロのトンネル内を3人1組体制で対応します。夜間作業になりますし、1路線3か月程度かかるため、現場への負担は少なくありません。そのため、検査データを即時にタブレットで確認・共有できるアプリの開発・運用や、コンクリートの剥落リスクがある箇所を画像解析できる技術の検討を行ったりと、少しでも業務を短時間かつ高精度に実施できるようサポートしています。

トンネルの「通常全般検査」とは?
構造物の変状などの有無およびその進行性などの把握を目的とし、国土交通省の省令に基づいて実施されます。トンネル全体を対象とし、徒歩による目視を基本として検査を行います。

ドローンの導入は通常全般検査の中でも、高所における業務改善の検討がきっかけとなりました。これまでの高所確認では目視で気になる箇所を発見して、後日足場を組んで近くから見てみると大丈夫だった……いわゆる“空振り”に悩まされていました。「コストも時間もかかるし、何かできないか?」と考えていたところ、たまたま社内で「ドローンを業務に役立てられないか」という話があることを知り、導入検討を進めることに。当初は地上での活用も部内で検討していましたが、地上と地下では操縦における条件や制約が異なります。コストや時間を考慮した結果、まずは当社路線の約85%を占める地下トンネル、その高所に絞って活用することになりました。

▲動画提供:JP Drone株式会社

最初の事例をつくりだす難しさと達成感


私はずっと土木関係の仕事をメインに担当してきたので、ドローンに対してまったく知識がありませんでした。一方で、取引先のドローン製作会社も地下鉄のルールに詳しいわけではありません。そもそも空を飛ぶものですから、トンネル内での活用事例がほぼなかったんですよね。私が製作会社にドローンのことを教わりに行ったり、先方にも現場を見てもらったりと、互いに学び、協力し合いながらの進行でした。
 
導入までには、地下ならではの課題がいくつもありました。大きなところでは、地下なので電波が届かず、GPSによる自動操縦ができないということ。そのため、GPSが不要な手動操縦の特別カリキュラムを、実際に操縦する社員に受講してもらう必要がありました。他にも、トンネル内はケーブルなどの鉄道施設も多く、ぶつかり合ってもダメージがないよう球殻(きゅうかく)フレームを装着してみたものの……サイズが大きく、持ち運びにくいと現場から不評で(笑)。今ではセンサーで鉄道施設を避けられるように改良しています。あとは、トンネル検査の人員を3人から増やさないよう気をつけました。効率化しようとして人が増えては元も子もないので。

▲球殻(きゅうかく)フレームがついたプロトタイプ時のドローン

個人的に一番大変だったのは、社内マニュアル作成です。ドローン導入のためには必須ですが、一からのルールづくりは想像以上に労力がかかりました。鉄道の安全管理上の課題や、ドローン製作・運用における決まりごとなど、さまざまな視点から考える必要があり、打ち合わせの度に「そんな視点もあるのか」と気付かされることばかりでした。一方で、ドローンに不具合が生じた際の検査中断基準など、東京メトロのみで判断しなければならないルールもありました。こちらは前例がない以上、慎重に議論する必要があり、別の大変さを感じていましたね。そういった産みの苦しみもありましたが、それだけに全線でドローンが活用できるようになったときの喜びは大きかったです。

効率化以外にも、思わぬメリットが


導入後から“空振り”の数は減少し、至近距離での高所確認を当日できるようになって作業効率が上がりました。また、問題箇所発見のスピードが上がったという意味では、お客様にとっての安全・安心にもつながっているのではないかと。
他にも、大きかったのは現場作業員への心理的な影響です。高所に気になる箇所があっても、足場を組んでの確認には数日かかります。すぐ確認できないことに対して、私の想像以上にもどかしさを感じていたそうです。今ではそれがすぐに確認できるので、安心感が高まったという声をもらいました。私自身、過去に現場を担当していたので、気持ちはとてもわかります。保守や管理においては作業のやりやすさや現場視点で感じている課題など、現場の意見や気持ちが大切なので、取り組んでよかったと心から思っています。

業務効率化に大切なのは、挑戦する気持ち


現場の意見や気持ちを尊重しつつ、一方では挑戦する気持ちを忘れないことも大切です。過去には新技術の導入で、現場から反対意見が出たこともありました。私自身もかつて書類が電子化された頃は、「紙の方が楽なのに」と思ったことも。使ってみたら、電子の方が楽でしたが(笑)。そこから学んだのは、たとえば「全員がアプリを使いこなすのは難しい」、「検査は直接目で見なければ」などの先入観は、業務改善のチャンスを逃す原因になるということ。新技術の導入は、会社全体で肯定的に捉えるべきです。ただし、今回のドローン導入については、過去にさまざまな新技術導入を経験してきたこともあり、現場からすんなり受け入れられました。柔軟な土壌ができあがりつつあるな、と感じています。
 
また、ドローンをはじめ技術は日々進歩しているので、担当者としては常に勉強が欠かせません。今はAIに興味があって、将来的には現場に行かずとも、正確な検査ができる可能性もあるのではと感じています。ただし、東京メトロでは安全・安心が最優先。それが損なわれるような効率化は行わない、という軸はこの先も不変ですね。
 
改めて、今回のドローン導入では多くの課題がありましたが、乗り越えることで大きな成果を得られると実感しました。これからもさまざまな業務課題を新技術をもって解決することで、現場がより効率的に働けるようにサポートしていきたいです。それが最終的には、お客様の安全・安心につながっていると思っています。

※記事の内容は2024年8月の取材時点のものです

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