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【特集 Vol.20】人と知見がつながり、ひとつの電車へ。南北線車両リニューアルの舞台裏。

2023年12月、8両編成にリニューアルした南北線が運行を開始しました。お客様が快適にご乗車いただけるよう混雑の緩和を目指し、既存の6両編成に新造車両2両を増結させ、定員数を882人から1,200人へ。さらに、安全性や快適性を向上させる大規模な改修を行い、新たな装置を搭載しています。これらを含めた車両の改修や新造車両の設計に携わるのが車両部 設計課です。今回は、南北線車両リニューアルの舞台裏を、唐澤さん、松井さん、倉知さんに語ってもらいました。


社内外で意見を交わし、ベストな車両を考え抜く


(写真左から右)車両部 設計課/唐澤 康平、松井 鵬樹、倉知 慧

唐澤:車両部 設計課では、安全性や安定性はもちろん、走行性、快適性まで、あらゆる視点から仕様を考え、車両設計を行っています。私の主な担当は、車体の設計に関する検討、新たな装置を搭載するスペースの確保や配線の調整などです。これらは社内の各部署だけでなく、車体メーカーや部品メーカーと連携して作業を進めていくので、設計をひとつ変更しただけでも影響が出てしまいます。だからこそ、影響が出そうな範囲を洗い出し、問題がないことをその都度確認し、慎重に判断するようにしています。
 
松井:私は、電車の走行において重要な役割を担う制御装置や主電動機などの性能の検討・決定を担当しています。他には、社内から取り付けの要望があった装置を、車体にどう搭載するかメーカーと検討することもあります。お客様の安全に関わる大事なところなので、情報の一つひとつを丁寧に確認しながら取り組むことを心がけています。
 
倉知:私は唐澤さんや松井さんをはじめ、それぞれの担当者が設計した車体や装置などの確認を担当しています。国土交通省が定めた法令などや、相互直通運転を行っている他社線との協定を守った正しい設計が行われているか、安全に走れるかなどの裏付けを取ります。具体的には、図面を一枚一枚ルールと照らし合わせて確認し、ときには社外の関係各所に他のメトロの車両との違いや、設計の変更点について説明することもありますね。多くの人が関わる仕事だからこそ、密なコミュニケーションを大事にしています。

構造の違う車両をつなげる難しさ


倉知:今回の南北線車両リニューアルの一番の目的は、混雑緩和のための輸送力の増強です。これまではお客様に分散乗車にご協力いただいていましたが、相鉄新横浜線・東急新横浜線を介した直通運転が始まったことや、今後の品川駅への延伸を見据えると、乗客数がさらに増えることが予想されました。お客様に快適にご乗車いただくためにも、車両を増やして定員数をアップすることにしたのです。
 
唐澤:既存車両に新造車両を連結させる事例は、東京メトロではここ十数年なかったこと。製造年代が異なる車両のため、同じ装置を搭載するにしても取り付け方法が変わるのではないかなど、確認しなければならないことは山ほどありました。また当時はコロナ禍にあり、車両検査をオンラインで行ったことも。一つの疑問も残らないよう、車体メーカーにカメラで細部まで写してもらいながら確認していきましたね。

倉知:私たちが確認した車両の図面は、全部で400枚にも及びました。とくに既存車両の図面は古く、手書きで分かりづらいところも多くて……。課内のメンバーやメーカーに何度も質問して教えてもらっていました。唐澤さんに聞きに行ったこともありましたね。
 
唐澤:あのときは、大急ぎで過去の資料を探しました(笑)。
 
倉知:また、相互直通運転を行っている他社線の担当者に、乗り入れて問題ないかなども確認していただきました。本当にいろいろな苦労がありましたが、たくさんの人の力をお借りして、一つの電車を仕上げることができたのだと改めて実感しています。

さらなる安全性と快適性のため、装置を大改修


▲左:脱線検知装置 右:車内セキュリティカメラ

倉知:リニューアルしたのは、車両だけではありません。万が一脱線した際に列車を自動停止させる脱線検知装置を取り付けました。さらに、車内セキュリティカメラも設置しています。 お客様の安心のためのカメラだからこそ、死角があってはなりません。設置時には、死角がないか何度もメーカーと検証を重ね、調整していきました。車内セキュリティカメラは、2024年度中に東京メトロの全路線・全編成に設置する予定になっています。
 
唐澤:同じく新たに搭載したのが、自動でフィルターを掃除する機能が付いた空調装置です。実は、私が設計課に配属された2016年頃から、車両への搭載を目指して小型化・高機能化に向けて動いていました。試作を何度も繰り返し、ついに実用化の目処が立ったときに南北線車両リニューアルの話が上がったんです。

松井:ちょうどそのタイミングで、私が実装を引き継ぎました。当初はわからないことも多く、唐澤さんをいつも頼っていました。設計課は経験や年次に関係なく話しやすい雰囲気があるので、何でもすぐに聞けたのがとても心強かったです。
 
唐澤:長年にわたって作り上げた装置を松井さんにバトンタッチして、実装につなげてくれたことが何よりもうれしい。この空調装置は、東京メトロの他の路線にも順次拡大していきたいと考えています。

あらゆる検証を行う、緊張感が漂う走行試験


松井:設計課は、設計したら終わりではありません。車両や装置が正しく機能しているか確認するための走行試験も私たちの仕事です。たとえば、列車の安全な走行に直結する「制御ブレーキ試験」では、加減速が仕様通りの性能か確認するだけでなく、乗り心地も検証します。加減速がスムーズでなかったり、車体がガクガク揺れてしまうと快適にご乗車いただけないので、実際に乗車して検証します。感覚的なものだからこそ自分の判断だけでは難しいので、できるだけ多くの関係者に乗ってもらい、感想を聞いては調整し、ベストな状態を探っていきました。
 
倉知:走行試験には、社内の人だけでなく、メーカーや相互直通運転を行っている他社線の担当者にも立ち会っていただき、改善点があれば話し合っていました。

松井:とくに緊張したのは夜間の走行試験です。細心の注意を払って測定項目を一つひとつ確認しながらも、始発に影響が出ないように、状況を見極めながら測定を進めていきました。40回ほどにわたって夜間の走行試験を行ったので、ようやく全てをクリアしたときには、「よし!」と思わず声が出ていましたね。

毎日の乗車がワクワクするような電車を届けたい


唐澤:今後は、新しい視点で車両について考えていきたいですね。お客様や車両に関わる全ての人が愛着を持てるような電車をつくりたい。そのために今は、車体メーカーの人と話して知見を得たり、鉄道だけでなく自動車の設計についても調べています。また、課内のメンバーとも、未来の車両について語り合ってみたいですね。
 
倉知:いいですね。私も、お客様がワクワクするような電車を作ってみたいです。宇宙船みたいな形の電車とか(笑)。
 
松井:私は、設計を手がけた電車が走っている姿を見ると、誇らしい気持ちになります。その気持ちを忘れずに、これからもお客様にとって安全・安心な車両設計を第一に、装置の性能を向上させる新しい技術開発にも取り組んでいきます。
 
倉知:車両設計は裏方なので、あまり注目される機会がないかもしれません。それでも、一つの電車にたくさんの人が関わっていることを、電車に乗っているときにふと思い出してもらえたらうれしいです。

※記事の内容は2024年10月の取材時点のものです。

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