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【特集Vol.11】小さなカイゼンを積み重ね、東京メトロの力に。

たとえば自動車に車検が必要なように、電車も安全に走り続けるためには検査や整備が欠かせません。その作業を行うのが車両部で、東京メトロでは、中野、深川、綾瀬、鷺沼の工場および検車区(※)で行われています。保守作業はマニュアル化することで安定した品質を維持していますが、さらなる作業品質向上のために、より良くするためにはどうすればいいか社員一人ひとりが“自ら考えて働く仕組みづくり”が課題となっていました。
そこで、車両部が独自に導入したのが「カイゼン活動」です。今回は、中野工場で点検整備を担当している桑村さんと清家さんに「カイゼン活動」について話を聞きました。

※「工場」は車両を分解して、部品ごとに点検や修理、交換などを担う現場。「検車区」は異常がないか、車両の日々の健康状態のチェックを担う現場のこと。



最前線だから気づくこと、
大切なのは「考働」すること


鉄道本部 車両部 中野工場/
桑村 正吾(写真左)、清家 柊太(写真右)

桑村:カイゼン活動において、私は活動の方針決定や運用などのマネジメントを担当しています。まず、カイゼン活動とは何か、それは日常業務や職場環境を見直し、良くしていくための活動のことです。一人ひとりが思いついた改善点を、気軽に提案できる場を設け、実現させるまでの仕組みを作っています。何を提案するかに制限はありません。業務効率化やコストの適正化、保守作業の安全性を高める提案もいいですし、職場の設備や備品といった小さなことに対する提案でもいいのです。大切なのは誰もが声を上げられる環境を作ること、その先に社員一人ひとりが考えて働く「考働」へつながってきます。だからこそ、カイゼン活動はトップダウン型ではなく、現場主体で取り組むボトムアップ型を採用しています。

【カイゼン活動とカタカナで書くのはなぜ?】
漢字の「改善」の場合、一般的に「悪い部分を良くする」という意味になります。それに対して車両部では、「カイゼン」に取り組むトヨタ自動車様の仕組みを学び、「昨日より今日、今日より明日を良くする」という意味をもたせた独自の活動として創り上げているため、カタカナ表記にしています。また、社員に親しみやすさを感じてもらうことも狙いとしています。

清家:自分が車両の点検整備に就いた新人の頃を思い返すと、当時カイゼン活動はまだ行われておらず、作業方法、工具の使い方や管理方法など、カイゼンできそうなことを思いついてもどこか言い出しにくいと感じることはありました。変えた方が作業もスムーズかつ効率的になるのに……と思っても、マニュアル通りに進めなければと保守的になってしまう自分がいて。確かに、ジレンマがありましたね。

桑村:カイゼン活動にとって重要なのは、カイゼンを提案してくれる人たちです。清家さんのように、現場に立ち最前線で働いている人の提案こそ、作業品質の向上だけでなく、より良い職場づくりの近道にもなります。より良い職場とは、コミュニケーションが取りやすく、何でも話しやすいこと。実際、私から現場で一人ひとりに話しかけてみると、マニュアルに対する疑問や変えた方がいいことなど、得られる情報が本当に多いんですね。だからこそ、カイゼン活動では意見を出しやすい環境や仕組みづくりを大事にしています。小さなことでも気軽に話せることで、たとえば作業中に気づいたちょっとした不具合などもすぐに共有してもらえて、適切な対応ができれば、作業品質や安全をより確かなものにできます。
そのために大切なのは、私のような活動をマネジメントする側が環境や仕組みを整え、彼らの気づきやアイデアをお蔵入りさせないこと。言っても何も変わらないと思わせることがないようにしていかなければならないのです。

続々とカイゼン案が!
本当に必要だったのはきっかけ


桑村:中野工場および検車区では2021年からカイゼン活動が始まりましたが、当時はどうしても受け身になりがちだった姿勢や、普段の会議の場でも発言しづらいという声もあったため、最初は誰も提案してくれないんじゃないかと不安しかなかったですね。そんな不安もあり、「カイゼン案の提案者とカイゼンに向けて実際に手を動かす実行者を別にする」「自分が楽になるための提案でもいい」など提案しやすいようルールにも気を遣ったのですが……。
すると、そんな不安をよそに検査記録のミスを防ぐためデータを一元化しようという現場にとってプラスになる提案や、車両部品の洗浄水を再利用することでエコに貢献しようという提案が次々に飛び込んできました。ただただ驚きしかなかったですね! 私が思っていた以上に社員のカイゼン意欲が高かったのですから。本当に必要だったのは、きっかけや提案できる場だったのだと気づかされた瞬間でした。

清家:カイゼン活動の導入は、待っていましたという感じでしたね。ずっと温めていたことを提案できる場ができて、今もどんなカイゼンを提案しようかと毎日考えています。周囲の反応も当初から好評で、ふと気づくとカイゼン案を考えている同僚の姿を見かけることもあったほどでした。一人だけで手を上げて提案するのは勇気がいることですが、みんなでやることで声を上げやすいですし、どんどん相談しやすい環境になっています。

桑村さんはよく「カイゼン活動を通じて、もっと楽をしよう」と声をかけてくれます。これは手を抜いて楽をすることではありません。マニュアル化された作業や現状の作業方法を見直すことで作業がスムーズに進めば自分たちも気持ちよく働けますし、またコストの最適化を進めることで電車を適切に管理するリソースを生み出すことにつながり、将来的にも安定して列車運行をお客様にお届けできると思っています。

もったいないを見直し、業務に貢献したい


清家:これまで私が提案してきた中で、とくに印象に残っているのが金属製フィルターの交換時期の見直しですね。規定の使用期間が終わったら交換していたものを、自分で実際に金属製フィルターの取り替え作業をする中で気づかされたんです。劣化していない新品同様の部品を、このまま捨ててしまうのはもったいない。小さい部品だけどとても高価なもの、部品の状態を見極めることでコストの最適化に活かせるのではないか。当たり前になっていることを改めて見直し、点検やメンテナンスを適切に行えば使い続けられるのではと考えたのです。

私の提案は採用されましたが、この部品はブレーキ装置に使われるもの。車両はお客様を乗せて走るものだからこそ、安全性が保証できなければ実現には至りません。検査の周期に合わせて最低でも4年間動作させた部品を、車両を分解して取り出してキズや不具合はないか綿密に検査し、時間をかけて確実に検証していきました。

▲ 銀座線のブレーキ装置に使われる金属製フィルター

桑村:カイゼン活動が始まった当初は、現場の作業にあると便利な備品や工具などの提案が多かったのですが、最近では作業手順の見直し、職場環境を良くするためのルール、部品の利用期間の見直しのように循環型社会に貢献できる提案など、広い視野での提案が増えてきました。
今では提案も「カイゼンしたい」ではなく、「カイゼンしておきました」という事後報告もあるほど!実は前段でお話した、提案者とカイゼン案の実行者を別々にするというルールも、廃止しようという提案を受けて後日なくなりました。当初あれこれ考えてルールを作ったカイゼン活動の管理人としてはちょっと複雑な気持ちになりました(笑)。でも、カイゼン活動を難なく受け入れてくれて、自分で考えながら働く、考働してくれる社員たちの自主性がうれしかったですね。

横のつながりを強化し、さらなるカイゼンへ


桑村:カイゼン活動では、その活動自体をより良くするためのカイゼンも必要です。取組みのひとつに、車両部の各工場および検車区から代表者が集まってカイゼン活動を勉強する「十二矢会(じゅうにしかい)」があります。自分の考えを伝え、相手の考えを知ることでお互いに学び、刺激を与え合う「グループワーク」、職場を超えてカイゼンを直接見て学んだり情報交換ができる「他職場の実地見学」を行っています。

清家:日々カイゼンできることを考える中で、自分たちに身近な視点で他の人はどんな提案をしているのだろう、と思うことがあります。そんなときは、部内限定で閲覧・投稿でき、コミュニケーションの場にもなっているカイゼン活動のWebサイトやブログをチェックしています。更新頻度も高く、具体的なアイデアも多いので、日々考働の刺激を受けています。
また、車両部カイゼンアイデアコンテストも開催されていて、他の職場のアイデアも視点を変えれば自分たちの現場で活かせることがあるので勉強になります。コンテストは車両部員なら誰でも投票できるので、楽しみながら参加できるのがいいですね。

カイゼンに終わりはない、
続けていくことが大事


清家:カイゼン活動を通して業務に向き合う意識も変わり、環境が良くなることでモチベーションも高まっています。この取組みは今は車両部のみで行っていますが、東京メトロ全体へと活動の輪が広がり、他部署とさらに交流ができればもっと新しいカイゼンが生み出されると思うんですよね。そのときが来るまで、車両部ができるカイゼンを続け、業務の効率化やコストの適正化を実現していくことはもちろん、この活動を通してお客様に何が還元できるか考え続けていきたいです。

桑村:私たち車両部がお客様にご提供できるのは、安全と安定運行です。この当たり前のことをこの先もずっと提供し続けられるよう、できることからどんどんカイゼンをしていきたい。今は、提案のあったアイデアが実現したらそこで終わりになっていますが、カイゼンは基本的に小さな積み重ねです。現状に満足せず、つねにカイゼンを繰り返し、進化させていくことで、お客様により良い東京メトロをお届けしていきたいですね。


【教えて!カイゼン活動のギモン】

Q. 他の工場・検車区では、どんなカイゼンの提案があるの?

A. 「車両点検中の目印になる旗の取り付け方法を改良し、離れた場所からも作業中であることを一目でわかるようにしたカイゼン案」「車両整備施設に日よけシートを設置し、作業中の身体への負担を軽減させたカイゼン案」「部品を収納する新しい容器を導入し、管理が容易になり業務効率化につなげたカイゼン案」などがあります。

Q. 中野工場ではどんな車両のメンテナンスをしているの?

A. 銀座線と丸ノ内線を走る車両の点検や修理を行っています。工場では主に車体の精密検査を担当し、車体を持ち上げて車体下に取り付けられている機器をすべて分解し、細かいパーツ一つひとつを確認、修理や洗浄を終えてからもとの状態に組み上げるまでを行います。また、屋根に上がって1車両ごとの連結面や冷房装置の状態なども確認したりしています。


※記事の内容は2023年9月の取材時点のものです。

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