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【特集Vol.14】スポーツ体験会をきっかけに、一人ひとりが輝ける社会へ。

多様性や共生社会という言葉が世の中に広まるにつれ、企業の取組みをはじめ、さまざまな分野に注目が集まっています。たとえば、パラスポーツもその一つ。東京メトロでは2017年に車いすフェンシング日本代表の安直樹選手を正社員として採用し、活動を支援するだけでなく、スポーツ・パラスポーツの認知や魅力を普及するイベントなどを行っています。
今回は東京メトロがスポーツ体験会をはじめとするイベントを実施する背景や、その中で大切にしていること。多様性への理解や共生社会を目指す上で大事なことなどを、安選手とイベントの企画や運営に携わる須藤さんに聞きました。


社会も、会社も、もっと一つになるために


広報部 社会・地域コミュニケーション課/須藤 友美子(写真左)
車いすフェンシング選手/安 直樹(写真右)

須藤:私は外部向けスポーツ・パラスポーツイベントの企画・運営といった、「スポーツ振興」を主に担当しています。東京メトロがスポーツを通じて東京を盛り上げるサポートをするようになったのは、2004年度の「東京国際マラソン」(現「東京マラソン」)からです。2010年代に入ってからは、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催決定をきっかけに、多言語対応やバリアフリーなど、もっと多様性や共生社会に配慮した東京メトロに進化するための施策を継続的に推進しています。
また、鉄道を「安全・安心に運行させる」ためには、部門間のチームワークはもちろん、一人ひとりが目標に向かって改善を重ねていく姿勢が不可欠です。そういった面で、東京メトロとスポーツ・パラスポーツとの親和性は高いと感じます。東京メトロには多様な社員が在席しているのですが、障がいのある社員の実体験に基づいた視点が、これまでにない仕事のアイデアにつながることも多いです。私が担当するイベントも、安さんの経験からしか生まれない視点や意見によって改善されています。社員がそれぞれの強みを活かしながら、一体感を持って仕事をしているんです。

安:須藤さんがお話ししたように、東京メトロが多様性の理解や共生社会の実現に向けた活動に力を入れていることは中から見て感じます。だから私も所属選手としての活躍や、個人目標である日本代表としての「生涯現役」の達成はもちろん、それ以外でも何か貢献したい。自分の経験や考えをイベントなどに還元していき、東京メトロの社員の一人として社会や会社の力になりたいと考えているんです。

● 安 直樹選手のプロフィール
14歳の頃に左足股関節に障がいを負うも、車いすバスケットの選手としてジュニア時代から活躍し、2004年のアテネオリンピックに代表選手として出場。2007年から日本人初のプロ選手としてイタリアでプレー。2015年から活躍の場を車いすフェンシングへ移し、2017年に東京メトロへ入社。2023年現在時点での日本代表歴は車いすバスケット時代から通算24年、パラアスリート歴は30年に。

楽しさを入り口に、障がいへの理解促進を


須藤:2023年11月11日(土)に開催したスポーツ体験会「トップアスリートにtry!2023」は、参加者がスポーツ・パラスポーツの選手やチームと交流することで各競技の魅力を伝えながら、双方のファン拡大や障がいに対する理解促進を図ることを目的としています。開催前の企画段階から安さんとは意見交換し、私のアイデアに「こうすればもっと参加者が楽しめるのでは?」などの意見をもらっています。要望にも柔軟に対応してもらえるので、とても心強いです。

企画がまとまったら、共同開催企業との調整を行います。今回はサントリーホールディングス株式会社の公式ラグビーチーム「東京サントリーサンゴリアス」と、パラスポーツの体験会や講演会などの企画・運営をするMAKE MEANINGSとの共同開催でした。社風も価値観も異なる企業同士なので、歩調を合わせるため「いかに参加者の皆さんが楽しみながら、パラスポーツや障がいを身近に感じてもらえるか」という観点を軸に調整を進めます。他には各社の挑戦的なアイデアを取り入れるなど、お互いの強みや良い所を活かすことも大切にしながら体験会の成功に向けて協力しています。

● ラグビー体験

● 車いすバスケットボール体験

安:10年ほど前に車いすバスケットの現役続行に難しさを感じ、一方でスポーツにはまだ挑戦し続けたいと考えていました。悩んだ末に他競技への転向を決意し、さまざまな競技を試していたんです。その中で車いすフェンシングを選んだのは、自分にとっての「好き」や「楽しさ」を感じ、それが根底になければ本気で挑戦することは難しいと考えたからです。だから体験会では、まず車いすフェンシングを楽しんでもらうことを企画段階から意識しています。参加者の皆さんの中には元々パラスポーツに興味がある方以外に、他の参加者に誘われたからという方もいらっしゃると思います。だからこそ、体験が楽しくなければ興味を持ってもらえないかと。

また、楽しさだけでなく、体験のリアリティも意識しています。参加者が私を突く場合に全力で避けてみたり、全力での突きのスピードを見てもらったり。もちろん安全は意識しつつ、子どもたちが相手の場合は激しさというより、どうしたら夢中になってもらえるかが大切です。楽しさやリアリティを意識することで、競技のスピード感や駆け引きの面白さなど、車いすフェンシングへの理解が深まると思います。その気持ちが通じて参加者が楽しそうに体験してくれたり、興味を持って質問してくれたりすることが、体験会で特に嬉しい瞬間ですね。

● 車いすフェンシング体験

お互いを良く知ることが、共生社会への第一歩


安:「トップアスリートにtry!2023」の大きな目的である、障がいへの理解促進という点では、なるべく素の自分で話すようにしています。普段通り冗談を言ってみたり、そこは一人の人間として「こういう人もいるんだよ」と知ってもらえればいいなと。
一方、日常の中で困っていることは、リアルな体験談として伝えます。私の場合は一見障がいがあるように見えないので、たとえば電車に席を必要とされる方が乗ってきたときに席に座っていると、「なんで席を譲らないんだろう」という目で見られることもあるんです。ネガティブなことも含めて、できるだけありのままの自分を参加者に伝えることで、障がいへの理解を深められるのではと考えています。

須藤:安さんのお話ともつながるのですが、お互いを思いやり支え合う共生社会を目指すためには、障がいについて「知る」、「視点を変えて社会を見る」ことが大切です。自分の日常にも困っている方やサポートが必要な方がいるという認識を持って、自分にできる行動に移せたらいいですよね。
ただ、普段から意識したり、行動に移すのは難しいと思います。だからこそ今回のようなスポーツ体験会を、視野を広げたり、気づきを得るきっかけの場にしてもらえると嬉しいです。私もこの仕事でパラスポーツを経験するまで、各競技がどんなにハードなものか知りませんでした。同時に車いすに乗りながら動く大変さを知ったことで、身近な建物のちょっとした段差など、バリアフリーをより意識するようになりました。自ら体験し、理解を深めることで、新しい発見が生まれるんです。実際に体験会に参加した方から「新しい世界が広がった」、「パラスポーツをより身近に感じた」と言っていただけると、開催して良かったと感慨深くなります。

継続することで、未来を切り拓く


須藤:ありがたいことに、東京を拠点とするスポーツチームから、今後一緒にイベントを実施したいというお話もいただいています。今後も過去のスポーツ体験会に参加したことがある方、初めての方、どちらにも楽しんでいただける企画や取組みに挑戦していきます。
そうしてスポーツやパラスポーツを通じて社会や地域の皆さまと良好なパートナーシップを構築し、東京を盛り上げながら、障がいへの理解を深めることに貢献していければと考えています。この活動を継続することで、多様性を認め合い、多様な人々が活躍できる社会につなげていきたいです。

安:選手としての目標は日本代表としての「生涯現役」と、2024年のパリオリンピック・パラリンピック出場。東京メトロの社員としては、社内外問わずもっとイベントや体験会を開催し、広くパラスポーツの普及や障がいへの理解促進に貢献したいです。体験会では短時間でいかに車いすフェンシングの魅力を伝えられるかが課題なので、さらにリアリティを追求し、参加者の皆さんがより楽しめるようにしていきます。目標を達成していく中で、パラスポーツをもっと身近に感じてもらえたり、パラスポーツ業界がさらに発展する未来があれば嬉しいです。


【教えて!パラスポーツやバリアフリーのギモン】

Q. 車いすフェンシングについて、もっと詳しく教えて!

A. 車いすフェンシングとは、車いすを固定して行うフェンシングです。「ピスト」と呼ばれる装置に競技用車いすを固定して座り、上半身だけで競技を行います。大筋のルールは立って行うフェンシングと同じですが、フットワークが使えず、相手との距離が近く一定であるため、剣さばきのテクニックやスピードが重要なポイントです。
種目は全3種目。胴体だけを突く「フルーレ」、上半身全部への突きを行う「エペ」、上半身への突き+斬る動作が加わった「サーブル」があり、それぞれ使う剣も異なります。

Q. バリアフリーのために、東京メトロはどんな取組みをしているの?

A. ホームドアやエレベーター、バリアフリートイレ、車両のフリースペース整備など、駅や車両のバリアフリー促進。また、他業種との連携による「shikAI(※1)」や「ことばでわかる駅情報(※2)」といったナビゲーションツールの提供、社内におけるダイバーシティ推進、ステークホルダー含めた人権の尊重などに取組んでいます。

※1 リンクス株式会社が開発した、駅構内の点字ブロックにQRコードを設置し、iPhoneのカメラで読み取ることで現在地から目的地までの駅構内での移動ルートを導き出し、音声で目的地までご案内するアプリ。
※2 NPO法人 ことばの道案内による、主に視覚しょうがい者や視力の低下した高齢者などのために、画像ではなく言葉の説明による駅の構内や電車の編成などの情報を提供するWebサイト。


※記事の内容は2023年12月の取材時点のものです。

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