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【特集Vol.01】 風水害から、命を、暮らしを守るために。

近年、増加している大型の台風や豪雨。「東京メトロでは災害時にどんな対応をしているの?」「いざというとき、自分はどうしたらいい?」そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、お客様の命を守るため、東京の交通インフラを守るため、自然災害対策に携わる安全・技術部の木暮さんに話を聞きました。


自然災害に立ち向かうため、
世の中の仕組みづくりにも関わっていく


鉄道本部 安全・技術部 防災担当/木暮 敏昭

台風や地震など、日本にはさまざまな自然災害が起こります。私は防災担当として、自然災害発生時の東京メトロの対応から見出された課題に対し、新たな仕組みづくりや規則の改定などを行うとともに、防災対策設備の整備計画の取りまとめを行っています。

しかし、東京メトロが単独で対策を行うだけでは、十分な効果が期待できないものがあります。それは特に大規模水害におけるもので、さらにお客様の安全・安心につなげるためには、地下をはじめ施設に水を入れないためのハード対策と、広域避難の輸送や車両の水没を避ける車両避難といったソフト対策の2つを、他の鉄道会社や行政機関などと連携することで効果をより高める必要があります。私は各機関が一体となって検討を行う場にも参画して、世の中の仕組みづくりに対して意見を発信しています。

ただならない状況の中、不安と緊張の一夜


▲ 対策本部イメージ
▲ 荒川水害時の被害シミュレーション結果
(ハザードマップ出典:https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/
senmon/daikibosuigai/index.html
)

大規模水害対策へ大きく動き出したのは2009年。中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」において、荒川が氾濫した場合の地下鉄の浸水被害とともに、洪水が地下鉄のトンネルを通って都心部を含む他の施設の被害を拡大させるというシミュレーション結果が示されました。
水害によって東京メトロの施設が被害を受けることは避けなければならないですし、ましてや都心部の洪水被害拡大の片棒を担ぐようなことがあってはならない。「何としても地下に水を入れてはならない」と、大規模浸水対策の整備に着手し、今なお進めているところです。

ついに荒川氾濫のときが来たか!? そんな危機に直面したのは、2019年10月12日から13日にかけて猛烈な勢いの台風19号が東京に接近したときのことでした。各自治体から住民へ避難勧告(※1)が出され、午後になると次第に風雨が強まってきました。夕方には荒川氾濫の危険性の目安となる「荒川下流タイムライン(※2)」の時刻が一気に進み、たいへん危険な状況にあるという連絡が入ってきたのです。
荒川の水位の状況によっては、お客様の避難誘導はもちろん、車両も水の来ないところへ避難させなければなりません。その判断材料のひとつとして、当時の私は荒川下流河川事務所とこまめに連絡を取り、荒川の水位の現状や今後の見通しを確認し、社内の対策本部に状況を報告するとともに対処方針を提案するという役割にあたっていました。

結果的に都内で荒川は氾濫しませんでしたが、厳重警戒態勢を敷き、不安と緊張感に包まれた一夜を過ごすことになりました。肝を冷やしましたし、正直、胃が痛くなりましたね。

※1 災害対策基本法が2021年(令和3年)に改正されたことを受け、「避難情報に関するガイドライン」が公表され、現在は避難勧告は廃止され、警戒レベルに応じた新たな避難情報などが自治体から発令されます。

※2 災害時におけるリスクを評価し、事前に用意した時系列の行動計画のこと。

列車を止めるという判断の難しさ


この台風19号における対応から、多くの課題が明らかになりました。当時我々は、自治体は荒川の水位上昇にしたがって避難情報を発表するという認識だったため、避難勧告または避難指示が出たら我々も運行を見合わせてお客様の避難誘導、車両の避難をしようというルールを決めていました。しかし、実際に避難勧告が出たとき台風はまだ近づいておらず、荒川の水位も通常と変わらない状況でした。

すでに地上区間では計画運休に入っていたところ、「果たしてこのタイミングで地下区間まですべての列車を止めてよいものか。逆に避難の足を止めてしまうのではないか。」自治体による早めの避難勧告と、我々の考えていた列車を止めるタイミングには乖離があり、お客様の命と公共インフラとしての鉄道資産を守るためにも、自治体の避難情報によらない新たな仕組みをつくることにしたのです。

台風などの状況から大規模水害のおそれがあると判断した場合の新たな基本的な対応は次のとおりです。

  1. 強風が吹き始める前に全線全区間の計画運休を行うこととし、計画運休に関する情報は早め早めに公表する。

  2. 計画運休でお客様が列車や駅構内にいない状態にしたうえで、駅や重要施設の浸水防止処置を行う。

  3. こまめに収集した気象情報や河川情報などに基づき、車両や社員の避難を判断する。

台風発生時には事前の情報発信を


いざ!というときに新たな仕組みでしっかりと対応できるよう、日頃から東京メトロではお客様への情報提供を強化しています。たとえば、台風が発生し、東京地方に影響が及ぶと予測された場合、列車運行に関する情報を駅構内や車内のほか、東京メトロ公式ウェブサイトなどを通して、これから列車をご利用いただくお客様に対しても広く発信するようにしています。

特に、計画運休が必要な場合、鉄道会社は実施予定の48時間前に運休の可能性を、24時間前には詳細な運休の日時や区間を公表します。計画運休を事前にお伝えすることは、お客様の安全を守るためでもあります。たとえば、事前のアナウンスなく突然列車を止めざるを得ないことになったら……。場合によっては満員電車が立ち往生したり、何時間も動かなかったり、それこそ列車ホテルのような状態にもなりかねません。
そうならないためにも、計画運休の可能性がある場合は前もってしっかりとお伝えするようにしています。

▲ 公式ウェブサイトでの運行状況発信イメージ


早め早めの行動を呼びかけ
お客様の安全を守りたい


列車の運行に影響が出るほどの悪天候時には、早めの帰宅や場合によっては避難をお願いしたいですね。お客様の安全のためにはどうしても列車を止める必要があり、いつまでも運行を続けることはできません。特に、大規模水害のおそれがあって広域避難が呼びかけられているようなときに、まだ大丈夫、とギリギリで乗り込むお客様が集まってしまうと混乱が起こってしまう可能性もあり、それがすごく心配なんです。
計画運休は、実施する時間も事前にアナウンスしています。いざというときに混乱しないよう、逃げ遅れることのないよう、決して計画運休間際ではなく、早めに動き出すとともに、駅係員の案内に従って落ち着いて行動していただきたいです。

また、鉄道利用に関してだけでなく、荒川の氾濫など大規模水害のおそれがあり、自治体からの避難の呼びかけがあったときには、余裕をもって避難していただきたいと思います。あらかじめご自宅の位置とハザードマップを照らし合わせ、どのくらい水害の危険性があるのか、立ち退き避難が必要か、建物のより高い階への避難でよさそうかなどを把握しておくことも、ご自身の身を守り混乱を軽減することにつながります。

一方、大規模水害に備えて車両の避難を行った場合、幸い水害が発生しなかったとしても、避難させた車両を元に戻したり、立ち退き避難した駅員が駅に戻って営業準備を行うなど、運転再開までには一定の時間を要します。どうかご理解いただきたいと思います。

風水害への対策は、今や国として最大の防災課題のひとつにもなっています。特に東京のような巨大かつ高度に発展した地下空間のある大都市が水没するような事態を考えると、対策の推進においては関係する事業者と行政が強く連携することが不可欠と考えます。我々は安全に列車を走らせることはもとより、手遅れにならないための情報提供や注意喚起、浸水対策設備の整備や警戒態勢の継続的な見直しなど、対策の強化をこれからも進めていきます。


【教えて!風水害時のギモン】

Q. 地下鉄なのに雨や風の影響を受けるの?

A. 地下区間では豪雨や強風の影響はほとんどありません。しかし、地上区間では運行の安全を確保するため、橋りょうに設置した風速計の実測値に従って徐行運転や運転見合わせを行います。
また、大規模水害のおそれがある場合には、車両避難に備えて地下区間を含めて全路線で計画運休します。車両は浸水の可能性が低い線路内や車両基地へ避難させます。

▲ 風速計
▲ 総合指令所での風速計情報画面

Q 台風や大雨の水は地下鉄に入ってこないの?

A. トンネル内やトンネルの入口には防水ゲートを、駅の出入口では耐水圧性を確保した完全防水型出入口の整備を進めており、いざというときは扉を閉めて浸水防止処置を行います。駅の浸水対策の工事期間中は、出入口の閉鎖などでご不便をおかけしますが、水害時の東京の都市機能維持につながる取組みですので、ご理解いただきたいと思います。

▲ 東京メトロの水害対策
(PDFを見る)

※記事の内容は2022年11月の取材時点のものです。

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