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【特集Vol.15】東京から世界へ。ともに鉄道の持続可能な発展を。

東京メトロ銀座線が東洋で初の地下鉄として開業(1927年12月30日)して以来、96年にわたって培ってきた鉄道運営のノウハウや経験を活かすために。世界に目を向け、立ち上げたのが海外の鉄道事業者に向けたオンライン講座「Tokyo Metro Academy」です。
東京メトロは世界に知られているのだろうか。そんな不安な状況の中で開講となった「Tokyo Metro Academy」とは、どのような講座が受けられるのか、どんな工夫やこだわりがあるのか、なぜ日本の鉄道会社が世界にノウハウや経験を発信するのか。講座の企画、運営から講師まで務める清水さんに話を聞きました。


世界の鉄道事業者が
知りたい情報を発信するために


国際ビジネス部 海外プロジェクト担当/清水 芳樹

「Tokyo Metro Academy」の開講に向けて、まず私たちが知らなければならなかったのは、講座を受ける世界の鉄道事業者や政府機関、教育・研究機関などの方が“知りたい情報は何か”ということでした。そこで2021年6月に行ったのが、ニーズ調査を目的とした無料オンライン講座です。2時間の講座で、駅と運転のオペレーション分野、車両・土木・電気の技術メンテナンス分野、駅商業施設の事業開発分野などを紹介し、アンケートを通じて講座に対する評価や感触を調査しました。
アンケートでは「講座の詳細を聞いてみたい」「運行・保守担当者の能力向上に役立った」など好感触のコメントをいただいただけでなく、東京メトロの取組みのほとんどに興味を持ってもらえることがわかりました。その結果で自信を持ち、いよいよ2022年の有料オンライン講座の本格開講へ向けて動き出したのです。

実は、無料オンライン講座を開講するまで“Tokyo Metro”という名称自体も世界に知られているのか心配だったのですが、非常に多くの方に参加いただき、講座中には参加者から東京メトロの路線名が出たこともあり、広く認知されていると実感できました。

専門分野を深く知る、
エキスパートたちが講師に


2022年8月、ついに「Tokyo Metro Academy 2022-2023」として有料オンライン講座8講座の本格開講へ。講座は、海外の鉄道事業者のニーズが高かった「列車運行における定時性の効果的な改善手法」や「車両メンテナンス」の他、海外事業に携わる同僚から海外のニーズに関する情報を集めて講座内容を選定しました。講師を務めるのは、駅、運転、車両、土木、電気などの専門知識を持ち、鉄道運営の経験を積んできた国際ビジネス部に所属するエキスパートばかりです。
とはいえ、講師として話すのは誰もが経験していることではありません。しかも、英語で全世界に向けて発信するのですから、まずは私の講師姿を見てもらい、本番に臨んでいただきました。皆さん、きっと緊張するだろうと思いきや……すごく雄弁で(笑)。うれしい驚きでしたね。

また、講座で使う教材も、東京メトロがすでに作り上げてきた資料をベースにして、各部から新たな情報をヒアリングしながら、各講師が準備していきました。教材に関して大切にしたのは、わかりやすいこと。文字ばかりにせず、図や画像を使って視覚的に見てわかることも意識しています。私が講師を務めた「駅商業施設の開発」の講座では、Echika表参道などの駅商業施設をビデオカメラで撮影した後、ナレーションをつけて編集し、紹介動画を自分の手で制作しました。画面越しのオンライン講座だからこそ、現場のリアルな実態や雰囲気をできる限り伝えたい、その一心でしたね。他にも細かいこだわりですが、オンラインのため声が聞き取りやすいようYouTube動画を参考に講座で使用するマイクを選んだり、講座が始まる期待感を高められるようカウントダウン動画やBGMを入れたりしています。さりげない工夫を今後も加えながら、講座を盛り上げる要素を増やしていきたいですね。

▲ 講座スライドの一例

参加者との活発な双方向コミュニケーション


講座では東京メトロからの一方的な発信にしないことも心がけています。講座の流れも、ノウハウや経験についてただ伝えるだけでなく、講座のテーマにあわせたディスカッションタイムやQ&Aタイムを設けています。Q&Aタイムでは、「列車遅延発生後の総合指令所の対応は?」「省エネに関する今後の取組みは?」などテーマをより深く理解するための質問が相次ぎ、参加者の方々の熱意がまっすぐに伝わってくるほど。それだけ皆さん本気で参加してくださっているので、私たちもその気持ちに応えられるよう、一つひとつの質問・意見には真摯に向き合うようにしています。こうして双方向でコミュニケーションを取ることで得た新たなニーズは、次回の講座内容に活かしたいと考えています。

また、参加者視点に立つことも講座では大事なことです。たとえば、講座を通じて学んだ取組みをやってみたいけど、自国でやるにはどうすればいいのだろう?と、参加者の方は考えることもあるでしょう。そのため、取組みに対する事前調査・検討、フィールド試験、導入判断、本導入までの一連の検討フローを紹介し、自国で検討する際の参考の一つにしていただきたいと考えています。私たちが目指すのは、東京メトロのノウハウや経験が海を越え、現地の鉄道事業の発展につながることだからです。

▲ 鉄道先進国・日本!を広く海外に紹介・貢献したことから、Tokyo Metro Academyの取組みが第22回「日本鉄道賞」の特別賞を受賞

実際の現場を、見て、知って、体感


現在は「Tokyo Metro Academy 2023-2024」を実施しているところです。より深く専門的に学べる有料オンライン講座を14講座開催し、さらに参加者の方に実際の現場を見てもらえるよう訪日研修も実施。訪日研修は「安全・安定輸送を実現するオペレーションとメンテナンスの取組み」をテーマに、東京メトロ施設での対面講義や現場視察を2023年11月13日〜17日の5日間にかけて行いました。

5日間という日程を、参加者の方を飽きさせずに、興味を持ってもらうにはどうすればいいかを考え、座学だけでなく多くの施設や取組みを見て回れるようにしました。駅では事故・災害対策設備を確認し、運転士のいる事務所では点呼の様子を見学。地下鉄博物館に行って地下鉄の歴史や建設について知ってもらい、総合研修訓練センターでは運転シミュレーター体験もしていただきました。ときには、通訳を介さず、担当者に直接質問を投げかける場面なども見られ、盛り上がっていた姿がすごくうれしかったですね。開催後は、「自国にない施設や取組みがあり、今後に活かしたいと思った」「すべての質問に答えてくれた」などのお声をいただきました。

また、研修全体を通じて、日本の良さである「おもてなし」や「細やかな対応」の意識を忘れずに、期間中には訪日研修への参加に感謝を込めて賞状を贈るサプライズも。遠く海外から日本に来て研修に参加されているのですから、日本らしさや東京メトロらしさを感じていただきたいですし、関係を大切にしていきたかったからです。この気持ちをずっと持ち続けていきたいですね。

● 対面講義・現場視察の様子

世界の鉄道事業の
持続可能な発展に貢献したい


すでに、次回「Tokyo Metro Academy 2024-2025」の開催へ動き出しています。有料オンライン講座数を増やし、訪日研修も新たな内容を検討してきたいと考えています。また、世界の鉄道では、国ごとに鉄道に関連する法令や鉄道事業の運営の仕方、列車運行の考え方にも違いがあります。今後は、国ごとの状況を踏まえてニーズにあわせられるよう、カスタムメイドのオンライン講座・訪日研修にも対応していきたいですね。そして、ゆくゆくは「鉄道の研修といえば、東京メトロ」「何か困ったとき、まずは相談してみよう」「東京メトロに、一緒に鉄道を運営してもらいたい」と言ってもらえるような存在になりたい。

新たなプロジェクトを推進するのは、ときに悩み、もがくこともありますが、周りの同僚と連携してともに進めていきたいです。海外鉄道ビジネスの拡大には、継続的に世界に発信し続けることが何より大切なこと。これからも「Tokyo Metro Academy」の取組みを通じて、世界の鉄道事業の持続可能な発展に貢献しながら、実績を一つずつ積み重ねていきたいです。


【教えて!Tokyo Metro Academyのギモン】

Q. 2023年度のオンライン講座は、他にどんな講座があるの?

A. 列車ダイヤの作成方法に関する「運転ダイヤグラム基礎」、お客様の声を活かしたサービスの改善に関する「お客様満足度向上の取組み」、駅構内・駅直結ビル・高架下などにある商業施設に関する「駅商業施設の開発」の他、「指令所による異常時対応」「軌道メンテナンス」などの講座が行われました。

Q. 世界のどんな国から、どんな人が参加しているの?

A. 2021年度〜2022年度は、無料講座と有料講座をあわせて46か国1,076名が参加し、アジア太平洋、中東、欧州、アフリカ、北南米のエリアと世界各地から集まりました。参加者は、海外の鉄道事業者や教育機関の方が多くを占めました。


※記事の内容は2024年1月の取材時点のものです。

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