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【特集Vol.06】新たな挑戦から広がる、不動産事業と東京の未来。

東京メトロでは鉄道事業に留まらず、不動産事業という形でも東京の魅力を創りだすお手伝いをしています。駅近や、場所によっては駅直結型など、鉄道会社特有の物件を多く取り扱う不動産事業の中から、今回は2022年9月にオープンした賃貸住宅「メトロステージ代々木上原」にフォーカスします。鉄道保守社員用の宿泊所をSOHO型住宅(※)にリノベーションするなど、東京メトロ初の試みも多く、メディアでも多くの反響がありました。
そんなメトロステージ代々木上原完成までの背景や工夫。また、新たな試みが今後の不動産事業にもたらす影響について、担当者の2人に話を聞きました。

※ SOHO(Small Office Home Office)とは、自宅と小規模なオフィスを兼用した働き方のこと。時間や場所にとらわれないワークスタイルの一つとして、昨今注目を集めている。


都市や生活を創造する仕事


都市・生活創造本部 不動産開発第一部(事業活用)/
佐藤 一成(写真左)、楠本 綸奈(写真右)

佐藤:不動産関係の部門は、東京メトロ内で「都市・生活創造本部」に所属しています。不動産だけではなく、都市やそこに暮らす人々の活き活きとした生活まで創りだしていく、ということを表した部署名ですね。私と楠本さんは、その中で自社物件の開発などを担当しています。
メトロステージ代々木上原のプロジェクトでは、私は設計段階から関わっていました。図面から間取りや水回りの配置を検討したり、材料や機器の設定変更、コストの調整を施工者や設計士と相談するなど、随時、現場に目を配りながら進行していました。

楠本:私は物件の内覧会やプロモーション関係、メディア向け対応などを主に担当しました。入社後、現在の部署に配属されて間もない頃だったので、不動産や建築業界の専門用語をお客様にどのような言葉で伝えれば良いか、苦労したのを覚えています。分からないことは佐藤さんに尋ね、常に学びながら取り組んでいました。

佐藤:逆に私は経験が長い分、対外的に情報発信をするとき、気づかずに専門用語を使ってしまうことも……。私も一部関わっていたプロモーション用の文章を作成する際、楠本さんに「この表現で分かる?」と質問して、助けられたこともありましたね。

カギになったのは、時代と街へのフィット感


▲ 内装イメージパース

佐藤:今回、リノベーションかつSOHO型の物件が当社にとって初めての経験だったことと、当初は本当に需要があるか未知数だったことの、2つの意味で挑戦的な物件となりました。もともとプロジェクト発足時に、新築にするか、リノベーションにするかは、社内でも意見が割れていたんです。しかし、建物を調査した上で議論すると、既存の建物を活かせる上に新事業の挑戦にもつながることから、リノベーションでの活用に決まりました。

ただ、プロジェクトが動き出した当初、私は代々木上原という街についてあまり詳しくありませんでした。だからこそ、まずは街に暮らす人々の生活を実感するために、自分の足で実際に歩くべきだ、と。どんな年代や職業の方が、どんな価値観を持って暮らしているのだろう。さまざまな目線でリサーチを重ねました。
とくに実感できたのは、渋谷区という土地柄か、先進的で多様なニーズを持った方が多いということです。街にフィットしつつ、奇抜すぎず特徴があるような物件にしたい。実際に歩いて調べたからこそ、イメージも膨らんでいきましたね。そういった事前調査からSOHO型や、自分らしい暮らし方ができる「BUFFER」というコンセプトにつながり、内装への発想も広がっていったんです。共用テラスにベンチを置いたり、料理教室などが開けるような間取りにしたり。住んだ後のコミュニティや、活用方法まで考えた上で設計されています。

【BUFFERとは】
英語で「余白」の意味。メトロステージ代々木上原では、居住スペース以外にオフィスや作業スペースなど、フレキシブルな活用ができる空間が各号室に用意されている。

楠本:とくに最近の東京ではSOHO型の物件や、自宅で仕事や遊びの切り替えができるような物件のニーズが高まっています。
そんな時代の流れもあってか、ありがたいことに情報公開から約2か月で満室になったんです。当初は半年程度はかかるだろう、という想定でした。想像以上に時代や街へのフィット感があったんだな、と。それをニュースや情報だけではなく、実務で実感できたのはとても良い経験になりました。

スピードと自由度、どちらも実現させるために


佐藤:一方で現実的な面でも、リノベーションという手法は理にかなっていました。宿泊所の活用が決まったのは、新型コロナウイルス感染症拡大の真っ只中でしたので、短期間での完成や収益化、投資コストを抑えることは意識しました。とくにスピード面について、建て替えなどでは2年程度かかるところが、リノベーションを選択したことで約1年という期間で完成できました。今振り返ると、挑戦的なだけでなく、現実的な部分とのバランスがうまく取れた物件でしたね。
ただ、リノベーションという形態だけでは、ここまで短期間での完成はできませんでした。そのために、関係者間で毎週打合せを重ね、必要に応じて直接現地で出来上がりのイメージを話し合い、設計や建築段階の意思決定を可能な限り早く行うように心がけました。

リノベーションの経験が豊富な設計士や、パートナー企業の協力を得られたのも大きかったです。今回主に協力してもらったのは、グループ企業である東京メトロ都市開発。宿泊所を何に活用していくかの検討段階から、設計・管理まで幅広く協力をしてもらいました。もう1社は株式会社リビタ様で、物件の企画を担当していただきました。とくに時間がない中でも物件の自由度が高まりましたね。たとえば、部屋の壁紙を赤にしようという提案も、最初は斬新なアイデアに驚きましたが、実際に仕上がってみると部屋の個性の一つに。我々だけでは、もう少し堅実な印象に仕上がっていたかもしれませんが、プロジェクト全体に「もっと自由に考えても良いのでは」という空気をつくっていただけました。

楠本:他にも自由な発想からくる提案がたくさんありました。たとえば、部屋に土間を取り入れたり、洋室の窓に障子を設けるなど……。私たちにとってもモチベーションや刺激になりましたし、影響を受けることも多かったです。今後の物件でも、活かせる経験になりました。

変わり続ける街に、私たちは応え続ける


楠本:私は東京出身なのですが、地元の人間から見ても東京は非常に変化が激しい都市だと考えます。昔行ったことがある場所も、久々に訪れると雰囲気が大きく変わっているんですよね。東京メトロの社員としても、不動産事業の担当者としても、都市や価値観の変化に対応し続けなければと、今回のプロジェクトを通じて強く感じました。

佐藤:私は東京出身ではないので、上京するまでは、人やものが密集している都心に住むというイメージを持っていませんでした。しかし、携わった物件を見に訪れると、自分らしく活き活きと暮らす人々の姿が、そこにあったんです。そんな東京を楽しんでいる姿を見ているうちに、だんだんと心境が変わっていきました。自分が関わった東京の一部が、人々の生活や楽しさに貢献できているんだと、誇りに思えるようになったんです。だから、今後も東京がもっと楽しい場所になるような、まちづくりをしていきたいですね。

実はメトロステージ代々木上原の構想段階では、ギャラリーやシェアオフィスなど、実現できなかったアイデアもありました。当時は実現できず残念に思いましたが、今はメトロステージ代々木上原という物件に挑戦したからこそ、新たに取り組めるアイデアもあると信じています。東京という都市において、広大で緻密なネットワークを持つ東京メトロは、その利便性の高さから大きなポテンシャルを持っていることが強みの一つです。住宅はもちろん、それ以外の当社サービスとも連動できるアイデアを模索していきたいです。

楠本:東京メトロといえば、鉄道事業というイメージが強いかもしれませんが、私たちは駅と周辺地域が一体となったまちづくりを通じて、東京の活性化を目指しています。今後もより魅力的な東京での暮らしにつながるような、物件開発や用地活用に取り組んでいきますので、ご期待ください。


【教えて!不動産事業のギモン】

Q. 東京メトロの持っている物件には、どんな種類があるの?

A. オフィス、ホテル、住宅、商業ビル、ゴルフ練習場などがあります。また、高架下では、店舗や24時間出し入れ可能なレンタル収納スペースなど、さまざまな用途で用地を活用しています。

▲ メトロシティ六本木
▲ メトログリーン東陽町
▲ メトロクローゼット南千住

Q. 東京メトロの物件って、一般の人でも住めるの?

A. はい、住むことができます。住宅は現在20物件以上あり、いずれも一般の方が対象となります。単身者向け、学生向け、ファミリー向けなどさまざまな物件があり、駅から近い物件が多いことも特徴です。


※記事の内容は2023年4月の取材時点のものです。

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